善悪を決めるのは他の誰でもない。
それを決めるのは『勝手なあなた』でしかない。
映画『終の信託』を観ました。
え?だから、これが映画でしょ?
っていう映画でしたが、『希望の国』に続き賛否両論の嵐。
人は何事に置いても自分の判断基準で物事を判断する。
良い行いも悪い行いも環境も立場も飛び越えて、
己の好き嫌いに近い『勝手な感覚』で判断する。
映画は大きく分けて『尊厳死』と『司法』の在り方のお話。
でも映画から伝わってくるものは、
もちろん2つの問題も大きな問題ではあるが、
それよりももっと身近な話の様に感じる。
ルールの中でそこの人々は生きる。
ルールがあるからこそ守られる事もあり、
ルールがあるからこそ縛られる事もある。
そして、参加者、条件が増えれば増えるほど、
多様な意見や蓄積された経験が飛び出し、それが複雑に絡み合い、
最初は少数の了承のもとで、決めていたルールが曖昧にぶれだす。
環境、立場、感情、関係性など様々なことがひとつの問題にはついてくる。
そして、その問題の数は関わる人と時間の数だけ倍増していく。
2人だけの約束は、あくまで2人だけの約束事。
嘘の様な現実も、他者からすればただのフィクション。
当事者ではない第三者は己の『感情』で物事を判断し、
当事者は己のディティールに『感情』を込める。
ただし、その『感情』はどちらにも共有されない。
だって、『俺、そんな事言ったっけ?』の一言で話は終わる。
ひとつの曖昧な世界を支えるものは互いの了解のみであり、
そこに齟齬が生まれればその『世界』はいとも容易く終わる。
以下映画の感想です。
まさしく信じて託す。
信じられる、信じたいからこそ人はそこに己を託す。
しかしその信じると言う行為はとても儚いもので、
信じる対象がいかに受入れるかに全ては掛かっている。
不倫と言う恋愛関係でも、主人公は己の気持ちを相手に託し、
託しきって裏切られたからこそ大きく傷つく。
託す行為はあまりに脆く、同時にお互いの了承の上でしか成り立たない。
患者との信頼関係は、愛情にも似たお互いの好意により成り立ち、
その関係は付き合い始めのカップルの様にとても美しい。
しかし、その関係性は患者の死により崩壊する。
2人だけで作ったルールは、外の世界には通用しない。
どちらの話も、当事者性と責任と言う問題が根幹にある。
映画であれ、誰かのエピソードであれ、第三者として関わる私たちは、
傍観者であり当事者には絶対になれない。
当事者ではないからこそ、無責任な発言を繰り返したり、
『現実性』という訳の分からない『己の世界』に当事者を当てはめようとする。
だから決してそこで解り合える事はない。
だって、当事者じゃないのだから。
よく『現実は小説よりも奇なり。』という。
しかしながら、傍観者にとっての『現実』とは、わかりやすいもの或は、
己の理解出来るものでしかない。
だから、理解出来ないものは『嘘だ!』とか『あり得ない』なんていうことを、
何のためらいもなく発言する。
でも、自分が巻き込まれ『当事者』になった場合は一気に発言が変わる。
『なんでわかってくれないの?』とか、『信じてよ!』とかって言い出す訳だ。
この映画は、当事者として責任を『受入れる』ことが描かれている。
それは理不尽だろうが、間違っていようが動かす事の出来ない事態に対してである。
何事も受入れなければいけない。なんてくだらない事を言っている訳ではない。
『現実』とはそういうものであり、
『現実』だから、ある日、唐突に自分に降り掛かるかもしれない。
という当事者として巻き込まれてしまう『現実』を描いている様に思う。
だから、『病院で医者同士が。。。』とか、
『患者とそんな。。。』とかという否定の言葉を見ると、
どうしてこうも勝手なのか。。。と個人的には思ってしまう。
映画『希望の国』のレビューにも書きましたが、
わからないものはないものであり、
自分の目に見えないものは存在しない或は間違っている。
と断定する人があまりにも増えている様に思う。
どうしてこうも他者ということを理解は出来ないまでも、
理解しようと言う『努力』をしない世の中になったのだろうか。
答えが『明確』に用意されているものだけが、
良いものの様に感じる様になったのでしょうか。
そんなにもあなたの人生と言うのは、
誰もが理解出来るほど単純で、普通でありきたりの人生なのでしょうか。
そうだとしたら、きっとこの先もこういった
『事件』に出会う事なんて『絶対』にないから、
平凡な人生を淡々と楽しんで頂ければと思います。
なんて、最後は愚痴っぽくなってしまいましたが、
個人的には『希望の国』に続き、
現代人が失ってしまいつつあるのだろうか、
『当事者性』と『他者』ということを改めて考えさせられる映画でした。
何も考えたくない人は見ない方が良い。
でも、『いつかあるかもしれない不安』に対して考える事は必要だと、
少しでも思っている方がおられたら、
そんな方にはお勧めの映画だと思います。
なんせ実話に基づいたお話だそうですから。
映画『終の信託』
http://www.tsuino-shintaku.jp/